ここからは後編です。
前編では過去に造られた大作のお話しや大好評のワークショップのお話しなどお聞きしました。
今回は貴重なアトリエの写真や造形の始め方・上達のポイントなどなどお話ししていただきました。
ワークショップやイベントなどでお会いしてもなかなかお聞き出来ないインタビュー後編、是非お楽しみください。
撮影される時に造形のことを言われるとやっぱり嬉しい
やっぱり楽しいなって感じますね。
ちょっと前は着るのも嫌になっちゃった時期もあったんです。
コスプレ業界の過渡期に色々なタイプのコスプレイヤーさんが参加し始めて、当時自分がまだ若かったこともあり「やっぱ可愛けりゃいいのか…」って、「衣装を頑張って造っても可愛い子にもってかれるよな…」って思ってしまった時期がやっぱりどうしてもあったんですよね。
企業さん側からしたらお仕事なので、可愛い子が良いっていうのは全然分かるんですよ。
分かるんですけど、それでもそういった葛藤があって、自分がコスプレしても意味がないしつまんないなって思う時期が正直あって、本当に本当に気分がノッた時だけしかイベントなどに行かなかったんです。
でもその中でも友達も増えたし、“気の合う方と一緒にやったら楽しい”という経験も出来たので、また楽しさが復活してきた感じですね。
全然あります!
ポージングで造形を前に出しちゃったりします。笑
最近はイベントで並んでくださったカメラマンさんの中に「衣装がすごいんで並びました!」って言ってくださる方が結構いらっしゃるので、そういうのもちょっと嬉しいなって思いますね。
もちろん自分が褒められるのも嬉しいんですけど、頑張ったのはやっぱり衣装なんで、それは嬉しかったですね。
あと正面からはあんまり見えない腰回りを頑張った衣装だった時、みなさん正面から撮って下さっていたんですけど、並んで下さったカメラマンさんの中に何人か「後ろの装飾も凄いので、振り向きとか背中も撮っていいですか?」って言って下さって、気付いてくれた!見てくれた!と嬉しくなったこともありました。
逆にブースで立ってる時、コンパニオンとして立っていると思う方ももちろん多いので、「衣装って買われたんですか?」とか「衣装は企業さんが用意してくれるんですか?」とか聞かれることも多くて、「自分で造りました!」って言うのが一種の流れになってますけどね。笑
でも最近はそういった「造形がすごい」って撮ってくださるカメラマンの方が増えてきて、それでまたコスプレが楽しくなってきたっていうのもあります。
やりたい衣装は結構あるんですけど、どうだろうな…。
芸能人とかいう訳じゃないから、言い方めっちゃ悪いですけど賞味期限が…。笑
男の人は歳を重ねてもダンディなキャラクターとかいっぱいいるから、むしろやりやすいキャラクターも出てくると思うんですけど、女の子はやっぱり…。
すごい年が上の設定でも、絶対ウソだろって思う可愛いキャラデザとか多いじゃないですか。笑
そういうのもあるんで…そうだな…。でもまだやりたいんだとは思います。
取り敢えず20・30代はバリバリやっていきたいと思ってるんで、様子見つつ考えます。笑
アトリエに潜入
前に松平健さんがとあるゲームの悪役キャラクターでラスボスとして出ていて、そのゲームの初お披露目の時にそのキャラクターのコスプレで武器を持ってステージに上がられたんですよ。
その時に武器を作らせてもらって、松平健さんにサインは頂いたんですが、作品は全部差し上げました。笑
そういうものなので、Twitterに上げてる作品とかほとんど全部出しちゃったんです。
手元には軽いのから重いのまで合わせて4・5着くらいしかないですね。
だからコスプレしても同じ衣装をグルグル繰り返しちゃうので、そろそろ新しい衣装作りたいんですけどね…。笑
マスク、ぱっと見そういう風に見えますよね。笑
でもあれ大事なんですよ。
それこそ有機溶剤も使いますし、後々響くので粉塵とか吸っちゃうと駄目なので。
身体に悪いもんばっかり使ってるので、ちょっとでも抵抗しないと。笑
そうですね、電動ヤスリ・ヒートガン・電動ノコギリ・ミシンなど使うのでありますね。
音や匂いがあるし、ゴミも変わった素材が入っているので、近所の人とかゴミ回収の人は「何屋さんだろう?」と思っていると思います。笑
工数がかかるものが逆に燃える性格?!
正直、多少好き嫌いで燃える・燃えないはあっても、そういう感情は薄くなってきているかもしれませんね。
でもやっぱり得意不得意はあります。
それによってバランス感とか違ってくるんですよね。
どっちらかっていうと私はファンタジー系の物を造る方が得意なんですよ。
それこそ模様が入ってるとか、ディティールが沢山ある物、曲線が多い物が凄い得意なんです。
工程が多かったり大変だったりするんですけど、“気が付いたら苦行の道にいる”みたいなとこが私はあるんですよね。笑
ありました。
良くいうと気分屋なんで、波があるんです。
そういうとこがあるから納品に追われるんですけど…。笑
気分がノレない時に造って、寝て、起きてみたら「なんだこりゃ!?」みたいなことは全然あるんです。
でも気分がノラなくても納期は迫ってるんで、やらなきゃいけない…やっても出来に納得がいかない…やり直す…というような葛藤は日々ありますね。
ランナーズハイ、ありますね!
納期ギリギリで最後の二日間は二徹したりすることがあるのでハイになります。
でもそういうハイな時にも波があるんですよ。笑
「あとちょっとで終わるぞ!」と「やっぱり永遠に終わらないよ…」みたいな気持ちが数時間おきに交互にくるんですよ。
そうなるとメンタルやられますね。笑
でも最初にお話しした『アクアマン』の鱗でだいぶメンタル鍛えられました!
深夜の1時から3時がデスタイムで…凄い本当に嫌になる時間なんですよ。
この時間を過ぎると逆にノッてくるんですけど、この時間がキツイんです…。
「早く寝ろ」って感じなんですけど、なんだかこの仕事してる人って夜型なんですよね。
夜中の方が雑音がなくて良いっていうのもあると思うんですが、なぜか朝や昼よりは夕方以降に作業することが多いですね。
音楽かけます。
でもそれも心理状況によって変わるんですよ。笑
最初は好きなアーティストの曲とかライブDVD流してたりとかするんですけど、そのうち好きなアーティストだろうが何だろうが“人の言葉”が凄いイライラしてくるようになっちゃって。
もうそうなると今度は癒やし系BGMとかにします。笑
それもジブリとか知ってる曲だと言葉が入ってきて逆にイライラしちゃうから、本当に知らない曲限定で垂れ流してます。
この状態が結構末期なんですけど、それを更に突破しちゃうと癒やし系BGMすらも嫌になってきちゃって、最後の方はひたすらディズニーのDVD流しました。笑
「夢の国ってやっぱり凄いんだな」って思いながら、ほぼ全プリンセスシリーズをAmazonプライムでめっちゃ買いまくってひたすら流してましたね。
“末期の末期がまさかのディズニー!”って自分でもちょっとおもしろかったです。笑
始めたら意外とノッちゃったりすることの方が多いんです。
ただ物造ってる人のあるあるかもしれないんですけど、やるまでが時間がかかって…。
やるまでは本当に本当にやりたくないんです。笑
家が作業場なのであまりにもやりたくなくて家にも居られなくて、歩いて15分の実家にご飯食べに帰ったりしてしまいます。
でも自分を何とか仕事へ持っていかないといけないので、取り敢えず作業場行くとか、取り敢えずパソコン付けるとかして対処しますね。
最初の一歩を嫌々踏み出します。
お母さんも最近は私が帰って来る時は大変なんだなって察してくれてます。笑
向上心こそ上達の原動力
本当は手とり足取り、切り方から教えているんで、出来ればワークショップに来て欲しいですけど。笑
一回やっぱり見様見真似でいいからやってみると、“何が分からないか分かる”のでいいと思います。
本当、素材は何でもいいです。
それこそ私も昔は工作用紙だけで剣とか作ったりしました。
工作用紙って意外と硬いんで一日位は全然もってくれるんですよ。笑
それもハードルが高ければ改造からやってみるのもいいですね。
既製品買った時に付いてきた造形パーツのちょっと変えたいなって所から改造してみて、改造とか造ることへの抵抗をなくすのは良い事だと思います。
一から造るってなると“ウッ”ってなる気持ちはすごく分かるので、ちょっと試しで「こんなもんかな!?」って慣らしでやってみると、そこで「自分は造形は出来ないんだな」って感じるのか、それとも「もっとやってみたいな」って感じるのか分かれると思います。
そこで「やってみたい」と思ったら見様見真似で、もうちょっと大きいものを形にしてみたり他のものを改造してみる。
それでも物足りなかったらネットで調べるなり、それこそワークショップなりにちょっと参加してもらうっていうのが確実な順番な気がしますね。
造形って普段しないことをするじゃないですか。
それが楽しい!と思えるかは重要ですよね。
楽しくないと感じたら、それはもう無理矢理やるもんじゃないとも思うので、そこら辺を少しづつ探っていくのが良いと思いますね。
バランスだったり仕上がり感とかだったり、自分の中では最低限だと思っているのですが“気を使っているとこが細かい”とか“こだわりが強い”っていうのは結構周りの方に褒めて頂くことがあるんです。
その一因として、やっぱり“楽しい”っていうのは無きにしもあらずなんですが、基本原動力が私はネガティブな要素が大きいということも関係しているんじゃないかと思ってます。
依頼してもらって造った物をお渡しして「値段にそぐわない、駄目じゃないか」とか怒られたらどうしようっていうのが怖くて、もう何にも文句言われないように頑張っちゃうんですよ。笑
このネガティブ原動力が結果的に上達には良くって、こだわってると言って頂けるようになれたんじゃないかと実は思っているんです。笑
造形師っていうのをお仕事にするのは、やっぱり大変だとは思います。
本当に好きでそれが原動力になるんだったら、それはそれで良いと思います。
周りにも特撮作ってる人で本当に小さい頃から特撮が好きで、造形ではないけど特撮に関するアルバイトから始めて、なんとか制作会社に就職して、やっと造る仕事につけたって人もいるんですよ!
そんな風に造ることが好き、本当に本当に好きな物があるっていうのを原動力にするのも良いと思います。
あとは上達するポイントとして、上手くなりたいっていうのももちろん良いと思うんですけど、やっぱり完璧だと思うと駄目かもしれないと思いました。
私その都度、「やった終わった!めっちゃ綺麗に出来た!」とか終わった時に達成感はあるんですよ。
でも一週間くらい経つと「やっぱりちょっと駄目だった…」と思うんですよね。
上達のポイントとしてオススメ出来るのは、原動力と向上心と満足しないこと。
作ったものを凄いと思うのは良いかもしれないんですけど、それに満足しちゃうと成長しないなと今思い返してみると思いますね。
納品する物は造ること以上に事前のヒアリングが重要
考えますね。
やっぱりコスプレ衣装は着てもらった時に可愛いのか・格好いいのかというバランスが重要だと思うんです。
マネキンに着せた時に良くても、本人に着てもらった時にバランスが崩れたりすることが時々はあるので、そういう時はどうするべきだったのか考えますね。
あと、着てもらった時につけ方を間違えちゃってることがあると、仕組みがおかしかったかのかなとか、付け方が分かりやすい構造にするにはどうしたら良かったのかとかいう反省はします。
そういう反省が次に活きて上達してきたのかなと思います。
もちろん30項目くらい採寸はお願いしますね。
あとやっぱり写真も頂きます。
採寸だけだと当たり前なんですけど、どうしてもおかしいところが出てきちゃうので、身体のラインが分かるような前・横・後ろ向きの写真を頂きます
あと全身の鎧を造る時なんかは、ボディトレースっていって、全身にラップとガムテープをぐるぐるに巻いて切り開いた仮マネキンみたいなものにご協力頂いたりしますね。
最近多い依頼は男性からの女装の衣装なんです。
男性に着てもらう衣装って、女の子の衣装でも女の子に着せるのと同じように造るとやっぱりバランスがめっちゃくちゃ崩れるんですよ。
男の人と女の人では胴の長さも腰の位置も違うので、絶対一回は途中の仮組みの段階で作ったものを着てもらって確認しますね。
上手い人は採寸だけで綺麗に作れちゃうのかもしれないんですけど、私はちょっと心配性が出ちゃうので。笑
生地など始めから「こういうのが良いです」って指定される方もいらっしゃるんですが、大半の人は“自分ではどうしたいのか良く分からないけど、格好いい衣装が欲しい”っていう依頼なんですよ。
みなさん素材や造形のプロではないので当然のことなので、こちらからコスプレですごい重要だと思う色味とか生地選びなどの打ち合わせはちゃんとしますね。
こちらから提示して具体的に見て初めて、好きとか嫌いとかご自身の好みや理想に気づく方はすごい多いんです。
有り難いことに最近は“私が作った物”が欲しいと言ってくださる方が多いんですが、そういう時でも生地とかの確認します。
ただ逆に質問しすぎても、訳が分からなくなっちゃって投げ出しちゃう方もいらっしゃるので、そこのバランスは難しくて、どこまで聞けば良いかというのもいつも考えながら打ち合わせしています。
もう想像です。
ゲームプレイ画面からとか色々な物を参考にするんですけど、どうしても見えない部分は“こうしていいですか”と確認しながら想像で作りますね。
特にカードゲームとかアプリゲームは平面の一枚絵しかないものも多いですし、他でも柄はハッキリしてないイラストってすごい多いんですよ。
取り敢えず納期守って、自分の中の一定以上のクオリティーを保って、っていうので有り難いことに4年以上やっていけているので、この先どうしたいかって言われてもちょっと想像つかなくて…。
取り敢えずきちんとやっていこうと思ってます。
まとめ
多くの方からその高い技術で一目置かれている造型師さんでもあり、コスプレイヤーでもある五月うさぎさんのインタビューいかがでしたでしょうか。
造形に興味がない方でもここまで突き抜けた才能をお持ちの方のお話しは面白く聞き入ってしまうものですね。
作品の精度が高すぎて構造など想像すら出来ず、素材がサンペルカであることすら信じられなくなってしまいます。
そんな作品も沢山のお話しを伺って、バックボーンを知ると更に様々な想いと共に見ることが出来ます。
今後もワークショップやイベントなどで五月うさぎさんにお会い出来る機会があると思いますので、是非実際に足を運んでみてください。
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